『毛皮のヴィーナス』

ここ最近のロマン・ポランスキー作品はものすごくハイテンションで、オープニングから期待と興奮でニヤニヤとしてしまう。

怪しさ満点のBGMに乗せて、どんより曇った雨の町並みの路を劇場へと進むカメラ。

「うわうわ、なんだこれ最高じゃん!」などと、理由のわからない高揚感に身悶えしていると、舞台となる劇場のトビラが勝手に開いて、俺たち観客を奇妙なオーディション会場へと誘ってくれるのだ。

出演者は、ある舞台の脚本家の男と、オーディションを受けに来た女優の2人だけ。

神経質そうな脚本家が、遅刻してきたグラマーな女優を煙たがりながらも一応オーディションしてあげるという流れで展開するこの映画、とにかくこのオーディションシーンの緩急のバランスが素晴らしい。

脚本家がさっさと終わらせようとユルく始まったオーディションが、女優の得体の知れないパワーでとてつもない緊張感に満ちて、かと思えば何かのきっかけで一瞬でユルさを取り戻したりして、まったくもって落ち着くヒマが無い。

演技と本音、物語と現実が曖昧になり、ついには劇中の2人はもちろん、我々鑑賞者さえも境界線がすっかり見えなくなってしまうという凄まじいクライマックスを迎えるのである。

本来オーディションは、選考する側のほうが、される側の女優よりも立場が上だ。

そこにはちょっとした主従関係が成立しているわけで、脚本家は自分の物語とそれを演じる役者を支配していなければならない。

しかし、ここでは明らかに脚本家のほうが、女優の手のひらで踊らされている。
それはなぜか?

この女優が、脚本家の隠れた欲望を見透かしているからだ。

作り手というのは、その作品に自分の欲望を投影するものだが、本人すら気づかない深層心理の欲望が浮き彫りになってしまうとき、予想もできない新たな世界が幕を開ける。

女優役のエマニュエル・セニエ、この熟女はとんでもなく魅力的である。
知的でセクシーでミステリアス。

こんな女が半裸で登場したら、もう理性なんかすかさずゼロになるだろう。

つまりこの作品、序盤からこの人の下着姿を延々と見せられて、ストーリーとか関係なくもう100点満点。


100点/100点満点中