『オーバー・フェンス』


(c)2016「オーバー・フェンス」製作委員会


100点満点

最近、芸能人のみなさんの間で、犯罪やら不倫やらの発覚で人生台無しにするのが流行っていますが、「それもまた人生じゃん!ドンマイ!」などと、彼らの第二の人生を微笑ましく応援したくなる映画を観ました。


函館を舞台にしたオダギリジョー主演の人間賛歌で、スクリーンの中に自分自身が入ってしまったかのような臨場感の作品です。
なんというか、劇場内の明かりがつくまで、自分が映画を観ていたことにまったく気づかない感じ。こんなに味わい深い作品は人生でなかなかお目にかかれないんじゃないかってほどの傑作。

オダギリジョーさんは、第二の人生を歩むために、ゼロからやり直そうと職業訓練校に通う中年です。たぶんなんかあったんでしょう。学校内でも孤高の存在で、プライベートでも当然ひとりぼっち。あえて、孤独でいようとし続けている雰囲気で、まるで贖罪でもしているかのような禁欲的な生活を送っています。

で、蒼井優演じる「変な女」と出会います。この女がかなり変で、たぶん精神的な病気。周囲からもキチガイ扱いされている。
そんな、社会からちょっとだけ外れている二人によるラブストーリーがこの作品の核になっております。


ふむ。傷だらけの男女による恋愛の緊張感というか危うさってたまんないですよね本当。一歩間違うと破滅的にも見えるギリギリの恋愛模様が展開。で、その恋愛がスリリングであるゆえに、セックスシーンなんかはもう眩暈がするほどエロいです。たまりませんマジで。


あのね、第二の人生ってのは、文字通り「第一の人生」を捨てることが第一歩じゃないですか。作中には、この2人以外にも越えなければいけない過去がある登場人物がたくさん出てきます。
踏み出さなくてはいけないことはわかっているんだけど、どうしても越えられない。理屈じゃないんです。過去の自分が犯した罪の重さに押しつぶされているんだからしょうがない。

決して生易しい物語ではないし、職業訓練校でのエピソードなどは厳しくて現実的な展開です。しかし、ラブストーリーの語り口だけ妙に寓話的で優しさに満ちている。そこが見どころ。

ああ、一回くらい間違ってもいいんだ。全部無くなっちゃったって、人生はきっとやり直せる。なんて。
誰もが生きる勇気をもらえる希望に満ちた作品です。



『オーバー・フェンス』
監督 山下敦弘
出演 オダギリジョー×蒼井 優×松田翔太  

海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く、孤高の作家・佐藤泰志原作 函館三部作 最終章
2016年9月17日ロードショー