『クロユリ団地』

恐怖は社会に根ざしていなければならない。

いまさらPCモニターからオバケが飛び出すような話をしていても単なるギャグにしかならないのだ。


邦画ホラーは、バカのひとつ憶えみたいに『リング』や『呪怨』をやってきたが、中田秀夫監督はまた新たな方向性を示してくれたような気がする。

誰もが目をそらしたい、でもどう考えてもヤバイ現実的な問題こそが、ホラー映画にとって最高の題材なのだ。


最近、築年数を経て老朽化したマンションの存在が社会問題になっている。

建物が古くなるということは、当然のように世帯主の高齢化・単身化も増える。

誰にも気付かれずに自宅で死亡する高齢者、つまり「孤独死」の増加というのは、若者にとってはたいした問題に映らないかもしれないが。


この作品、いま思い出しても寒気がするシーンが中盤にある。

物語の大きな分岐点であり、前田あっちゃん演じる主人公の素性が明らかになるシーンだ。

日常が非日常に一気に変わってしまう凄いシーンで、中田秀夫監督の演出力と、なによりあっちゃんの演技力に感動してしまった。


クロユリ団地』は、この世で一番恐ろしいものが何かということがよくわかる映画だ。

劇中、「生きている者の時間は前に進んでいるが、死んだ人間の時間はそこで止まっている」というセリフが出てくる。

このセリフこそが『クロユリ団地』の核心だ。


『リング』からはじまった【理不尽な呪い】の増殖は、ホラー映画の概念を変えてしまったが、中田秀夫監督は自らその方向性を捨てて【正統派の呪い(人間の弱さにつけこむ呪い)】を復活させた。


その古臭い方向へのシフトチェンジが、この作品が賛否両論である理由だと思う。


しかし、まわるーまーわるーよ時代はまわるー、よろーこびー悲しみくりかえ〜しー。

などと歌う本家の中島みゆきよりも、薬師丸ひろ子のカバーバージョンのほうが好きって人もいるわけで。←俺


そういう意味で、古臭い手法ながら現代社会の最先端の闇をテーマとしたこの作品は、傑作としか言いようがないのである。


つまり100点。