『コズモポリス』

最新作『コズモポリス』は、最高峰のクローネンバーグ映画だ。

すべてがそろったハイテクリムジンで移動する裕福な男。
ボディーガードまでついているどう見ても安全な環境。

外では貧困者たちによる暴動が起きていて、銃ナシでは危険すぎる界隈。
あげく自分を脅迫する者もうろついている。

さて、車内と車外ではどちらが安全なのか?

本作はそんな当たり前のことすらわからなくなる。

まさに内と外の境界線がどんどん曖昧になる感覚。そう。いつもの感覚だ。


クローネンバーグは原作を読んでたった6日で脚本を書き上げたという。

すげー瞬発力。

前作『危険なメソッド』同様に、溢れだす言葉と思想だけで映画を成り立たせている。

そしてもっとも重要な点。



すさまじく、エロい。



「セックスの匂いがする」

劇中のこのセリフにすべて集約されているのかもしれないが、クローネンバーグの作品の魅力は、やはりこういったセリフがダイレクトに飛び出すところにある。

「セックスの匂い」とは何か?

流した体液のニオイなのか?シャワーを浴びたときに使った石鹸のニオイなのか?

おそらくどれも違うのだ。

「セックスの匂い」というのは精神的なオーラ。

欲望を解消し満足感を得た生物特有の生命信号。

とにかくそれは確実に匂っているのだろう。

セックスをした直後の人間に漂い、一時的に周囲を淫靡な気持ちにさせているか、あるいは不快な気持ちにさせているのかもしれない。



この作品の魅力はセリフの気持ち悪さにある。

登場人物たちが繰り出す暗示的なセリフの応酬が心地よく、不快で、不穏だ。

主人公のロバート・パティンソンは始終誰かと会話しているが、特に結婚したばかりの妻との会話シーンは危うくて刺激的。

何か目に見えないモノがスクリーンに映し出されているような異様な空気感で、こんな世界を堂々と表現してしまうクローネンバーグの作家性に心底シビれる。憧れる。

つまり、ファンなら悶絶必至の傑作だ。


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