『スカイ・クロラ』

  『スカイクロラ』は、スクリーンからまったく目が離せない正真正銘の傑作だった。


この監督のボヤキというか、思想というか、まぁ言ってみりゃただのタワゴトなんだけど、それがセリフとして迫力の映像とともに展開していくのは見ていて本当に心地良い。
映画を観ていて、俺はまっさきに『アヴァロン』を思い浮かべたわけだが、アプローチは違っても結局やってることは同じなわけだ。
もちろん根底にあるメッセージも、「はいはい。そうだよね」と微笑みつつ納得してしまうほどそのまんまだったりする。


つまりこの作品は、誰がどう見ても押井守監督作品。
タレントを声優に使っているという部分以外では、これまでの作品となんら変わらない至高のアシッドムービーなのである。


戦闘シーンの素晴らしさは圧巻だ。
決定的なシーンではスローモーションまで飛び出す気合いの入りっぷり。
撃墜された戦闘機からあがる黒煙すら美しい。


もっと素晴らしかったのが、基地滑走路のシーンだ。
とにかく音響が果てしなく臨場感に満ちていて、風の音やそこにいる登場人物の息づかいまで、なにもかもが目の前に実際にあって、存在するすべての音を拾っているかのようだった。
スクリーンの中に本当にその世界があるかのようなリアリズム。


押井監督は、『イノセンス』の警察署のシーンで、担当刑事のデスクの後ろで入り乱れる犯罪者や警察官たちの背景を臨場感たっぷりに表現していた。
精巧に作りこまれた背景のディテールが、画面の迫力として観客を圧倒する。
俺は押井監督が作り出す世界が大好きだ。


相変わらずのタワゴトも清々しいほどに耳障りが良かった。
「戦争という存在があるからこそ、我々は平和を認識できるのだ」というような、菊池凛子の棒読みゼリフには感動した。
このセリフは棒読みだからこそ活きたのではないだろうか?


押井作品初の大根役者「菊池凛子」の存在は大きかった。
ド素人な棒読み演技が、キルドレという概念にことごとく合っていた気がする。


キルドレは、自分がキルドレであるということ以外は何ひとつ不明瞭な存在。
これは、現代の若者たちそのもののような気がする。
「俺って一体なにやってんだろ?」。
繰り返される日常の中で、ふとそんなことを思ったとしても、たぶん答えなんか見つからない。
そのまま惰性で生活し続ける人もいるし、何か答えを見つけようと必死になる人もいる。


キルドレは基本的には無気力で無感情だが、人と関わることを知った草薙の周りで変化が起きる。
他人と関わること、誰かを愛することが、自分自身を見つけるきっかけになる。
何かに必死になることこそが人間らしさなのではと思う。


絶望的なラストシーンとは一変して、エンドロール後のシークエンスは少しだけ希望があった。
明らかに何かが変わったような、これから変わっていくような、そんな予感をさせる希望。


俺は予備知識もなにもなしでこの作品を観たが、何も知らずに観たほうがいろんな感動を得られるのではと思った。
始めは、彼らが一体何をしているのかがわからない。
ただなんとなく、戦争をしているんだなということはわかる。
物語が進むにつれ、意味ありげなセリフやシ−クエンスの断片が繋ぎ合わさり、ハッキリとした輪郭が見えてくる。
その展開の流れが非常に心地よかった。


間違いなく傑作。
今年ベスト当確必至。
観て泣け。