『ハプニング』

 この作品の監督はシャマラン君というインド人で、『シックスセンス』や『サイン』、そしてローデッドの2006年度年間ベストワンにも輝いた『レディ・イン・ザ・ウォーター』などを撮った人だ。
シャマラン君の作品は、毎回ほぼ同じ構成になっていてとても心地良い。


簡単なストーリー設定の中で、細かい事件やセリフが重々しく展開し、意味ありげなのに実はたいして意味のないハッタリ演出が連発され、ラストはそれらが何一つ説明されないまま、まるで少年ジャンプの打ち切り漫画のようにド派手に終了する。
この監督の凄いところは、どんなにバカバカしいストーリーでも、たちまち高級感あふれる知能指数の高いスリラーに見せてしまうところだ。
彼が撮れば、俺が真夜中に家族に隠れてオナニーしている様子ですら、スリリングかつショッキングな1級サスペンスに仕上がることだろう。


つまりは、シャマランはハッタリ脚本のプロなわけだ。
もはやシャマランほど、ハッタリズム溢れる監督を俺は知らない。


昔、自身の監督したホラー映画の話題作りのために、上映する映画館に様々なギミックを仕掛けたウィリアム・キャッスルという人がいた。
作品上映中に観客席をグラグラ揺らしたり、場内の空調を調節して一時的に風を送り込んだりと、作品を怖がらせるために子供じみたイタズラを本気でやっていた伝説のハッタリ監督だ。

シャマラン君は、このウィリアム・キャッスル級のハッタリを自らの脚本で行なう。
彼の撮る作品すべてに、凡人には思いつかないような驚愕のハッタリ演出が挿入されていて、それらを楽しむために俺はシャマラン映画を観る。
シャマラン映画の熱狂的ファンとは、脚本のハッタリがもたらす圧倒的パワーに魅せられた人たちだ。


よって、頭の堅い映画ファンには否定的にとられてしまうのも頷ける。
ハッタリ演出を嬉々として楽しめる、良く言うと柔軟な、悪く言うとアホンダラな脳みその映画ファン(俺)にはたまらない作家であるわけだ。


そーんなシャマラン君の2年ぶりの新作『ハプニング』。
またもシャマラン君お得意の、天才的とも言えるハッタリ予告のかいあって、上映前はかなりの映画ファンが期待に胸を膨らませていたようだ。
シャマラン作品の宣伝には、毎回本当感動を覚える。
脚本だけでなく、予告編にさえも高度なハッタリ演出をカマすという、まさに監督と宣伝のスペシャルコンビネーションだ。


んでもって『ハプニング』だが、これがもうたたみかけるハッタリ演出の応酬が感動的な、どこを切ってもシャマラン的な金太郎シャマランだった。
しかしシャマラン作品に関しては、映画の内容や素敵なハッタリ演出には一切触れずに書かなければいけないのが暗黙のルールだ。
よって作品の感想を一言で言うとこれだ。


「すげーハプニング!」。


相変わらずとんでもない視点で、庶民的すぎて逆に予想外な展開をガンガン挿入してくる。
前半10分たらずで、ハッタリ演出のオンパレード。
「こんなに飛ばして大丈夫?」などと、観客が余計な心配をしてしまうほどの迫力だ。


しかしシャマランのハッタリパワーに、アイデアの枯渇などまるでありゃしない。
上映時間90分。
芸術的ハッタリの応酬。
当然のように事態の収拾などつくはずもなく、最高のタイミングであっけなく上映は終了。
ラストシーンからエンドロールの暗闇になる瞬間に「よっしゃ、オッケー!今日はここまで!」というシャマラン君のお開きの合図が聞こえてきたほどだ。


ハリウッドは本当に素晴らしい。
シャマラン君のようなホンモノの狂人に、定期的に作品を撮らせる技量があるなんて。


最強のプライベートムービー『レディ・イン・ザ・ウォーター』で、燃え尽きたシャマラン君の復活祭、ハイテンションハッタリムービー『ハプニング』。
これ楽しまなきゃダメでしょ。マジで。