『ヒットマン』

スゴ腕の暗殺者を描いた映画はたくさんある。
孤高の殺し屋。
クールで頭良くて仕事は完璧で誰よりも強い。
一般市民にはやさしくて、悪党は容赦しない、勧善懲悪のダークヒーロー。

ヒットマン』は、そんな映画だ。

しかし、これほどまでにわけのわからん殺し屋映画も珍しい。
基本設定は、お決まりのアクション映画なのだが、ストーリーが意味わかんない。
ただ単に、俺にこの物語を理解するチカラが備わってないだけなのだが、ハッキリ言ってそんな意味のわからなさなんてどーでもイイと思えるほど、この映画は面白かった。
ストーリーがわからないのに、面白い映画はたくさんある。
たとえば最近だと、続編も作られているロシアの『ナイトウォッチ』とか凄かった。
何やってるのかまったくわかんないのに、メチャクチャな画像とセリフの応酬で楽しかった。
あと、ニコラス・ケイジ主演のアメコミ映画『ゴーストライダー』なんか、とてつもなく意味不明なのに、とてつもなく面白かった。
そんな、物語なんてどーでもいい面白さの映画はたくさんあるが、この作品もその中のひとつであることに間違いはない。

とにかく脚本が凄い。
目からウロコの脚本とはこのことだ。
本作品の脚本家スキップ・ウッズという名前は、確実に覚えておいたほうがいいだろう。
名前に「スキップ」などという、軽快なニュアンスを漂わせるこのセンスは、只者ではないと思う。

なんと言っても、主役であるハゲの殺し屋くんのキャラ設定が素晴らしい。
「死角なし」とはまさに、こいつのことだ。
すべてにおいて死角なし。

普通、どんなスゴ腕にも、読み間違えや気を抜く瞬間が必ずある。
その一瞬のミスがドラマを生むわけで、それこそが映画的なんだよね。
完璧な殺し屋が、生まれて初めて恋をするとか、子どもたちと触れ合って感情が芽生えるとか、そーゆうのが映画には絶対必要なはず。
でも、この本作品には気を抜く瞬間がまるで無い。

作り手が、「凄い男」とはどういう男か?ということを確実に理解している。
「凄い男」とは、プロの殺し屋でも、無敵の格闘家でも、不死身の男でもなんでもない。
ノーパン・ノーブラのセクシー女に誘惑されても、自分を抑えることの出来る男こそが、真の「凄い男」なんだ!
主人公の殺し屋は、女の誘惑にことごとく打ち勝つ。
ハタから見てて、「そこはヤッちゃってもしょうがないでしょ」というシーンでも、この男は下半身に逆らって手を出さない。
ノーパン・ノーブラのセクシー女に、ベットに押し倒されても、なお下半身の支配下におさまらない男などいるのだろうか!
年がら年中、下半身に支配されている俺にとっては、この殺し屋は神にしか見えない。

そして、もっと凄いのは、この事件の重要な立場的扱いのセクシー美女が、実はまったくどーでもいい存在だというオチの無さだ。
セクシー美女が、セクシー以外の何の役割も担っていないという、圧倒的気持ちよさ!
この女が原因で、なにか問題が起きるというわけもなく、人質に取られて苦戦するというわけでもない。
かつて、これほど意味のわからないヒロインがいただろうか!

クールなアクションや過激なバイオレンス演出よりも、脚本の徹底した「わけわかんなさ」が目立つ快作『ヒットマン』。
男ならば、見逃しちゃいかんぜ。