『クローバーフィールド/HAKAISHA』

 新手のモンスターパニックで、「怪獣によって破壊され尽くしたセントラルパークで発見された、犠牲者のデジカメ映像」というコンセプトが泣けます。
いわゆるフェイクドキュメント手法の怪獣映画です。
『ブレアウィッチ』のゴジラ版みたいなノリ。
俺は『ブレアウィッチ』が大好きです。
あれほど不吉で忌まわしい映画を、クリスマスシーズンに全国公開した、このジャパンという国は素晴らしい。
思わず劇場内で国歌斉唱しそうになりました(アメリカ映画なのに)。
当時、新婚ホヤホヤのクリスマスイブに、カミサンと観に行った『ブレアウィッチ』。
鑑賞後のデートが、よりいっそう楽しいものになったのは言うまでもありません。

そんなことはさておき、この『クローバーフィールド/HAKAISHA』ですが、結論から言って超絶傑作でした。

もう、何から何までアタマ良すぎですね。
展開が地に足ついてて、演出もことごとく丁寧。

何がスゴイって、デジカメ映像をそのまま流してるって設定だから、なんの前置きも説明もなく、ストーリーが展開する強引さがスゴイです。
逃げ惑う被害者のビデオだから、ブレまくって何が映ってるのかもほとんどわかんない。
つまり作り手が、わざと派手にブレさせて映画を作っています。
わざわざ大金をかけて、見にくい映画を作るスタッフの心境とはいかに?
劇場には「この映画は手ブレが多発するので、鑑賞中、車酔いに似た症状になる恐れがあります」等の注意が書かれたポップが貼られており、なかなか作り手の本気っぷりが伺えます。

『ブレアウィッチ』をはじめ、こういった作品で「車酔い状態」になる人は多いですよね。
観客が鑑賞モードを切り替えないからこういった悲劇が起こります。
「テキトー鑑賞モード」。
これが必要になります。
このモードを持ってない人は、『クローバーフィールド』も『ブレアウィッチ』も、心底楽しめません。

「テキトー鑑賞モード」は、従来の映画鑑賞モードと違い、観るべき箇所と観なくて良い箇所を、判断しながら鑑賞するモードです。
普通の映画だったら、セリフやら、ちょっとした俳優の表情やら仕草など、様々な表現を味わうことが大事です。
しかし、フェイクドキュメントは、もともとパニクってる人間を題材にしているため、細かい心理表現など表現してるわけがないのです。
作り手もドキュメントとしての臨場感を出すことに、より細かい神経を使っています。
つまり、観にくいシーンと観づらいシーンのメリハリがハッキリしています。
ブレブレのシーンは、全く見なくても良い箇所であり、カメラが見易くなったら、そこは見て欲しいシーンなのです。
カメラの動きが、そのまま作者の意図した「この映画の見所」になっているので、わざわざブレブレの見にくいシーンなんて、真剣に見なくていいのです。
観やすいとこだけ観たらいい。
これがフェイクドキュメント映画の基本鑑賞モードなのでした。

そんな、プロフェッショナルな手ブレ映像が生み出すサスペンスも素晴らしいものでした。
イデアに満ちた、様々なショックシーンが連発され、それを適度にわかりやすく、適度に不親切に表現する技術も、さすがとしか言いようがありません。
結局、ラストは「だからなによ」というようなノリで終わるとこもナイス。
そのまま、有無を言わさず感動のエンドロールへ突入し、凄まじいラストミュージックの旋律が観客の心をわしづかみにします。
このエンドロールの曲が、とんでもない破壊力なのです。
つまり、『クローバーフィールド/HAKAISHA』のHAKAISHAとは、この音楽のことだったのです!