『スペル』

日常生活において、リズムを刻みながら行動するというのはとても重要だ。


呼吸の回数から食事の速度、排便、仕事の速さに至るまで、そのとき刻むリズムに大きく支配される。


たとえば歩くときの速度は、歩幅やペースが自分なりのリズムを刻むことによって生まれてくる。
音楽を聴きながら歩けば、自然と楽曲のテンポで歩いているなんてことがよくあるはず。

つーか、聴いている楽曲のテンポで思考までしているんだよね。


んで、もちろん映画鑑賞においてもリズムはかかせないものだと思う。


どう考えてもノレない映画ってあるじゃん。
もう、オープニングから苦痛な感じの映画。
観ていれば面白くなるはずだし、設定とか物語もけっこう好みな作品なのに、どうしても観ていられないやつ。


それは、たぶんリズムが合ってないんじゃないかな、自分と。
しょっぱなからズレちゃってるから、観続けていても延々とズレっぱなし。
案の定、最後までまったくもって苦痛なんだよね、そういうときって。


映画がつまらないというよりは、刻んでいるリズムが映画側と自分側で食い違っちゃってるんだと思う。


とにかく、リズムってのは大事なんだよ。
で、それをふまえてだね。


絶妙かつ天才的なリズムの映画登場。


トントントントントーン!って感じで、もう笑っちゃうくらいリズミカルにショック映像をたたみかける作品『スペル』。
これはもう最高に怖い映画。


まあ、ホラーによくあるジプシーの呪いネタなんだけど、ブッ飛んだ内容ながらも、なかなか地に足がついた展開なのがさすが。
呪いをかけられるのは、今までけっこう真面目に生きてきた素朴な女の子だから。

呪いをかけられる理由もかなり理不尽だし。
ただの平凡な社会人が、ひょんなことから呪われちゃうってストーリーは、とっても現実的だと思うな。
どんなに文明社会でも、どんなに善良でも、みんなアッサリ呪われるからね。


ただ、この映画は「呪い」を描いた映画ではないんだな。
この『スペル』てのは邦題で、まぁ考えた奴はそのうち地獄にでも落ちるだろうからほっとくとして、作品そのものは呪いとか超常現象よりも、観客を驚かせるビックリ演出に命を賭けた本格的アトラクションムービーなのだよ。


珠玉のビックリ演出が次々と飛び出す、ビックリ演出の玉手箱。
世界中のありとあらゆる「ビックリ」が詰まってるね。
この作品に使われた「ビックリ」の数はギネス級だよ。
ホラー好きで、何十年もさまざまなホラー作品の「ビックリ」と親しんできた俺が言うんだから間違いない。


そしてまた、ストーリーが多彩な「ビックリ」を無理なく挿入できるよう展開して、その「ビックリ」を最大限に機能させているところに、俺なんかは感心しちゃうわけだ。


あのね、さっきからビックリ、ビックリって連呼しているけどね、アレだよ。
そんじょそこらの「ビックリ」とはわけが違うからな。


「ビックリ」演出って、たまにムカつくことない?
なんだよ!無駄に脅かしやがって!みたいな。
質の悪いホラーにはよくあるんだけどさ。


本作にはそういうの絶対ないから。
もう、ビックリすることが一種のエクスタシーになっちゃうから。


オーマイガッ!オーマイガッ!って、よく海外のポルノでファックしてるけど、本作の「ビックリ」はそんな感じ。
「わ!」って驚かずに、観客はみんな「オーマイガッ!」って叫んじゃうわけ。
まさに劇場がアメリカンハードコアの世界に早変わり。


いわゆる、独特なリズムでのテンポ良い編集が、心地よい「ビックリ」を観客にもたらしているわけ。


たたみかけるビックリ演出や、やりすぎとも思える過剰なショックシーンが、決して悪いストレスを感じさせないところが、この監督の巧さなのだ。
これはまさに「観客のリズムを知り尽くしている」と言っても過言ではないかもしれない。


あと、サム・ライミ映画の真髄って、やはりポップさなんだよね。
入れ歯がフッ飛んだり、目ん玉が飛び出たり、ゲロを吐いたりといった、誰にも媚びないポップさ。


それに加えて、古今東西の効果的な「ビックリ」をブチこんだ、史上最強のポップエンターテインメント。
それが『スペル』だ。
観てビックリして!