『レッドクリフ 1』

  『レッドクリフ1』の出来の良さは、まさに「かゆいところに手が届く」的な鑑賞者への配慮の成すワザである。


三国志』の映像化とされているが、ベースの部分以外はほとんどオリジナルと言っていいほどの新解釈(というか妄想)で脚色されている本作。


もともと『三国志演義』そのものが、容赦ない複雑さと人間的感情のドス黒い部分全開の内容なので、そういった『三国志』特有のダークさを排除したという部分では、知らない人にも入り込みやすい。

まさに初心者への配慮が伺える設定になっているのである。



オープニングでの人物・時代説明や、何度も何度も繰り返し入る名前紹介のテロップなど、「この人はどこの国の誰に仕える武将なんですよー」という親切心あふれる説明も良心的。
武将たちの個々のキャラクター設定も、わかりやすくてマンガ的だ。


曹操を悪者に仕立てて、劉備を正義として描く。
善と悪を明確にするやりかたも気持ちいい。


孔明周瑜の、本来絶対ありえるはずのない友情も、説得力があって良かった。
無駄としか思えないラブストーリーは、女性客への配慮だろう。


そして、戦闘シーンにおける派手な演出や、それぞれのキャラが発するセリフなどは、『三国志』ファンたちへの過剰なサービスである。


関羽張飛の超人的な活躍を、趙雲の熱い戦いを、孔明の冴えに冴えた策略を、『三国志』ファンたちは目の当たりにすることができる。
これはファンが長年夢見た光景であり、小説を読みながら何度も何度もイマジネーションを重ねたシーンである。


豪傑と呼ばれた将軍たちの圧倒的な立ち回り。
これが観れるだけで、この作品はもはや人類史上最高の映画なのである。


三国志至上、最高にド派手な戦いである「赤壁」の映像化。
ほとんどが脚色による大味な展開ではあるが、それでも『三国志』ファンとして心を揺さぶられずにはいられない。


個人的には、もはやパート2はオリジナル作品になってしまっても構わないと思っている。
周瑜孔明の友情物語。

それでいいじゃないか。


三国志』本来のドス黒さなど、まったく出す必要なんかないんだ。
ロマンあふれた大作『レッドクリフ』。
これは、『三国志』を超えた『三国志』なのだ。