『アイアンマン』

  ロバート・ダウニーJrという俳優をご存知だろうか。


俺もこの俳優のことを、何から何まで知っているわけではないが、はじめてスクリーンでこいつの姿を見たときから「この男は絶対アホに違いない」と踏んでいた。


なぜなら、そこそこ二枚目で、そこそこ器用な演技ができて、そこそこな役柄を演じる、どっからどう見てもそこそこな俳優なのにも関わらず、その異様な存在感だけはズバ抜けていたからである。


どんなに平和的なシーンでも、彼がいることで、そこにごく微量の狂気が漂っている。


演技とは別次元の、存在そのもから漂うキチガイ的オーラ、それがロバート・ダウニーJrなのである。


そんな予言的見解を証明するかのように、ジュニア氏は麻薬で逮捕された。


誰一人驚かなかったのは言うまでもない。


ジュニア氏がヤク中であることに何の違和感もない。


もはやすでに、ジュニア氏には『アイアンマン』を名乗る資格が十分あったのだ。



「アイアンちゃんになるのは俺しかいないだろ、なぜならトニー・スタークこそがマーベルのヒーロー至上、もっとも人間的でイカレているんだから」。



などとジュニア氏がホザいていた事実は、まったく無い。


しかしながら、これもまた容易に想像できることではあるが、ジュニア氏は間違いなく、「アイアンマン」を「アイアンちゃん」と言っていたに違いない。


それほどまでの愛着を持って、「アイアンちゃん」と対峙していたのである。


43歳にしてスーパーヒーローを自ら演じようとしたその真意はいかに?


答えは簡単だ。



ヤクの禁断症状に他ならない。




アイアンちゃんのキレた行動は、すべてジュニア氏の私生活とシンクロしている。


どこがどうシンクロしているのかと問われると、知らねーよとしか言いようがないが、それでも俺はジュニア氏がアイアンちゃんを演じ、なおかつヒットさせたことに喜びを隠せない。


アイアンちゃんのブッ飛んだ活躍が、ジュニア氏の今までの人生の延長上にあるかと思うと、運命の素晴らしさを感じてしまう。


俺もアイアンちゃんになれるだろうか?


なれるはずだ。


どんなに深く沈み込んだ人間にも、ヒーローになれるときが来る。