『ユナイテッド・トラッシュ』

 



結論から言うと『ユナイテッド・トラッシュ』は大傑作だった。
今年鑑賞した映画の中でもトップクラスの出来だったと言っても過言ではない。
ただ、どこが面白かったのかと問われると「どこかに面白かった要素はあったっけ?」などと考え込んでしまう。
それほどまでに、この作品は語ることが難しい。
まるで、自分の見た悪夢を説明するような感覚に似ているかもしれない。


シュリンゲンズィーフ監督は、作品に自らの政治的思想を盛り込んだと言っている。
しかし鑑賞した人間は、政治的なものを感じる前に、この作品の持つ圧倒的な負のパワーに打ちひしがれてしまうこと山のごとしだ。


アメリカに精子爆弾を発射するというクライマックスでは、「いいからもうみんな死んでしまえ」と思わずにはいられなかった。
この作品に関わった人間が、全員ことごとく不慮の事故で死んでくれていたら、さぞかし感慨深い作品になったことだろう。
しかし不幸なことに、関係者たちは全員存命している。
その事実が、この作品により一層の悪意と汚らわしさを感じさせる。


俺がこの作品をとても気に入った理由のひとつが、作り手が鑑賞者をとことんバカにしているという点だった。
とにかく演出すべてが「バーカ、バーカ」と、まるで子どものように俺を嬲っているような不快感だ。
しかし観ていくうちに、その不快感が快感に変わってくる。


バカにされてるのは、俺だけじゃないんだ!
この映画は、人間全体を小バカにしているんだ!


それがわかると、途端にこの作品に愛着が湧いてきた。
すべての不快なシーンをゲラゲラと笑い飛ばすことが可能になり、汚らしいモノが美しく、バカバカしいものが崇高に感じられるようになる。
間違いなく、こんな芸当は天才にしか出来ないだろう。
監督はすべてを計算したうえで、この不快極まりない演出を巧みに使いこなしているのだ。


人間をバカにした映画。
シュリンゲンズィーフ監督が作り出した新たなジャンルに、俺の心は震えて燃え尽きるほどヒートした。

大傑作!