『バンテージ・ポイント』

 『バンテージ・ポイント』は、一発ネタの素晴らしいサスペンスでした。
大統領暗殺事件の前後が、やったらめったら巻き戻されて、様々な登場キャラクターの視点で展開していきます。
前半は凄くアッサリと大事件が起こり、その後は、実はこうでした。あそこではこんな事が起きてました。この人はこんなことしてました。みたいな後付がどんどこされると。
普通ならば強引とも思える事件背景なのですが、巻き戻しという荒業によって、すべてナットクさせてしまう編集パワーが凄いですね。
そう。
この作品の命は「編集」なのです。
スチュアート・ベアードさんです。編集。
『リーサル・ウエポン』シリーズや『ダイ・ハード』、最近では『カジノロワイアル』も編集で参加してました。
監督作では『エグゼクティブ・デシジョン』ですよ。もうタマラナイですよ。
開始15分くらいでスティーブン・セガールを殺すという、神をも恐れぬサスペンスアクションです。
そんなプロ中のプロが編集した巻き戻しですよ。
ただの巻き戻しじゃないわけですねコレ。
エロビデオをボンヤリ見てて、「お!今のシーンもう一回!」とか言って、おもむろに巻き戻しするのとはワケが違うんです。

そして、キャラクター設定もとても良心的。
配役がとってもストレートで、誰がどんな奴かが顔見るだけで一目瞭然です。
主人公の神経衰弱なデニス・クエイドとか、フォレスト・ウィテカーなんて、モロに寂しい中年そのまんまで笑ってしまいます。
ハッキリ言って、誰が悪い奴で誰が操られてるかなんて、一瞬で見抜けてしまいます。
でも俺は声を大にして言いたい。

「そこがこの作品のいいところじゃん!」と。

謎解きなんてどーでもいいくらいこの作品は面白い。
なぜなら「巻き戻し」という強引なチカラ技に、翻弄されるのが楽しいから。
物語は、核心部分に近づくたびに「巻き戻し」が発動され、クライマックスまで全貌が見えないのです。
事件は終わってるし、主人公に至っては、前半ですでに事件の真相を理解しているわけです。
しかし観客は「巻き戻し」の発動により、核心部分に近づいては、また事件30分前に戻されるのです。
どんだけ戻されんのよ!俺たち!

ワンアイデアで、ここまでひっぱれる必殺の「巻き戻し」技。
これは素晴らしい発明であるのと同時に、超高度な編集技術あっての職人芸なのです。