『REC(レック)』

 
 今まで、いろんな国のいろんなホラー映画をいっぱい観てきた。


邦画やアメリカ映画だけでなく、韓国、中国、タイ、インド、ドイツ、イタリア、イギリス、スペイン、フランス、カナダ、メキシコとかいろいろ。
もっと観てるかもしれないけど、思いつくのはこのぐらい。


面白いことに、ホラー映画ほど、その国特有の思想や時代が反映されるジャンルは無い。
「恐怖」とは、やはり「時代」や「人」を映し出す鏡なんだと思う。
ハリウッドホラーのお祭り騒ぎも、イタリアホラーのグロテスクも、ドイツホラーの変態性も、どれも愛すべきご当地サービス精神が生んだものだ。
それぞれ素晴らしい作品ばかりなので、「どの国の作品が良い」なんて一概には言えない。


ただ「背筋が寒くなるほどの恐怖」という一点に関して選ぶとするならアレだ。
どの国にも特徴があって、怖かったり怖くなかったりするわけだが、まぁ基本的にジャパニーズホラーが一番怖い。
なぜなら日本には信仰という概念が無いから。


根付いた宗教がない分、ジャパニーズホラーはとことんわけがわからない。
「幽霊」も「呪い」も意味不明な迫力があるのはそのためだ。
たとえば有名なアメリカ映画『エクソシスト』では、少女の恐ろしい変貌はすべて悪魔の仕業で、それを救えるのは神であるという説明がつく。
しかし、『リング』の貞子は何かと言われても、なんだかわからない。
「恨み」であることはわかっても、なぜ個人的な恨みが無関係な人間を、よりによってビデオテープを介して殺害するのか?
今では「なんとなくそんなもんだ」ですんでる話だが、よくよく考えると意味不明だ。


ジャパニーズホラーには善悪もない。
純粋な悪(呪い)が、一方的に皆殺しして、それに対抗する手段なんていっこもない。
ジャパニーズホラーの怖さとは、まさになんだかよくわからないモノの恐怖だ。


それを踏まえて『REC(レック)』の感想。


スペインのホラー監督、ジャウマ・バラゲロの最新作『REC(レック)』は、奇病に感染した人間に襲われる恐怖を描いた作品だ。
少なくとも前半は。
中盤を過ぎたあたりから、なんだかよくわからない恐怖が漂いはじめる。
それは、感染者が増え続けて逃げ場がなくなるという恐怖ではなく、一体なにが始まろうとしているのか?という不安感だ。


撮影中の取材クルーが巻き込まれるという設定なので、手持ちカメラの臨場感のあるリアルロケ映像が、気味の悪さを最大限に演出しているのは間違いない。
しかし、この作品の恐怖は、もっと本能的な恐怖。
何か見てはいけないモノを見てしまったような、胃が痛くなるような不快感だ。


この「ヤバイ事が起きている」という感覚は、海外のホラー作品では非常に珍しい感覚だ。
忌まわしい演出は、ジャパニーズホラーが得意としている恐怖演出。
海外の視覚的恐怖を重視したホラーでは、なかなか表現できない領域だと思う。
それにバラゲロ監督が得意とする、子供と暗闇を巧みに使った恐怖効果も、実はジャパニーズホラーの常套手段だったりする。


しかしこの作品は、決してジャパニーズホラーの影響を受けただけの、そこらのサルマネ作品とは違う。
どちらかと言えばハリウッド的なニオイのほうが強い作品なわけで、つまり日本的な感覚とは全く別物の、独特な忌まわしさを表現した作品なんだ。
アメリカ映画の派手さと、ジャパニーズホラーの忌まわしさ、そしてバラゲロ監督特有の不快な暗黒表現。
それらが融合した究極の暗黒映画『REC』。


どうかみなさん観ないでください!